「お姉ちゃんばっかりずるい。先に生まれてきたほうが、好きなお洋服買ってもらってるんでしょ!!」
11月2日。
保育園の衣替え初日の朝、泣きながら次女が叫んだ。
いよいよ秋も深まり涼しくなってきて、半袖の体操着の下に長袖を着せて登園しようと、春まで着ていた長袖白Tシャツを渡した時のことである。
次女の顔が一瞬にして曇った。
「こんなの、着たくない」
え?ほんの数ヶ月前まで、普通にこのTシャツ着てたよね!?
突然の拒絶に、母の顔も硬直する。
登園時間まで、あとわずか。私の通勤時刻もギリギリだ。
一分一秒を争う、この朝のデッドヒートの最中に!?
「マフィンちゃんがいいの!!!」
嗚呼、マフィンちゃん。
それは、次女お気に入りの猫柄のピンクTシャツのこと。
しかし、そのマフィンちゃんは今、パナソニック洗濯乾燥機LX127の中でぐるぐると回っている。
迫るタイムリミットに、母の余裕ナシ。
「白いTシャツじゃなくてもいいよ!引き出しから自分で探して!!」
泣きながら引き出しをさぐる次女。
しかし、彼女の口から出てきたのは、
「……選べないの!!!」
選べない? 引き出しには、あふれんばかりの服が詰まっているのに?
「選べないなら、かあちゃんが選んであげる!!」
苛立ちでついつい語気が強まる。
「いい?キミが選ぶのは、この白いTシャツか、お気に入りだったこの緑のTシャツ。この2つだよ。どっちにする?」
究極の二択を迫る母。対して娘の回答はこうだった。
「着なくていい!!!半袖で行く!!!」
外の気温は15度程度。さすがに半袖では寒いだろう。
しかし、娘の意思は岩のように硬く、結局半袖にジャンパーを羽織るというアンバランスなスタイルで登園したのだった。
(ちなみに、引き出しいっぱいの服を前に「選べない」と固まってしまうのは、実はめずらしいことではないらしい。選択肢が多すぎると、かえって選べなくなる。これは「選択のパラドックス」と呼ばれる現象だ。次女の「選べないの!」は、本気で脳がパニックを起こしていたサインだったのかもしれない。)
「お下がり=節約&エコ」は親の自己満足だった?
娘を送ったあと、冷静になって考えてみた。
確かに、次女にはこれまで「服」をほとんど買ってあげたことがなかった。
上下の服どころか、パンツやシャツなどの下着に至るまで、見事に長女のお下がりばかり。
なので、パンツがなんだか下がってくると言われて確認すると、ゴムが伸びきりその伸縮性をすべて失っていたり、姉妹でヘビロテしたTシャツは、光にかざすと向こう側の景色が見えるほどペラペラの極薄生地になっていたり、長靴のワンポイントの飾りは、経年劣化で自然にポロリと落ちてきたり・・・という有様であった。
それでも、これまでは何の疑いもなく着ていた無垢な次女。
そんな彼女にもしっかりと自我が芽生えてきた。
そしてその自我は、親の想像をはるかに超えて、とてつもなく固く尖ったものへと成長し、今回のような「着替えストライキ」に・・・。
「お姉ちゃんばっかりずるい!!!」
悲痛な叫びがよみがえる。
でもね、次女よ。
お姉ちゃんだって、好きな服を買ってもらっていたわけではないのだよ。
ミキハウスよりマイメロ! 高級ブランド vs 子供のテンション
実は長女もまた、私の友人からいただいたお下がりをメインに着ていたのだ。
決して「先に生まれてきたほうが好きなお洋服買ってもらってる」わけではない。
我が家の娘たちは皆、等しく「頂き物のお下がり」で育ってきたのだ。
そして、そのお下がりたち。ただのお下がりではなかった。
我が家では到底手が出ないような、ミキハウスやファミリア、BeBe(べべ)や組曲など、ブランド服が多く含まれていたのだ。
それらを着せるだけで、我が娘たちがどこぞの令嬢のように上品に見えてしまうマジック。
「まぁ~!うちの子たち、なんてお上品でかわいいのかしら・・・!」
と、うっとり大満足していたのは、親の私だけだったのだ。
ブランド名や洋服の品質、高見えに満足しているのは親だけ。
子供は、「自分で選んだ」服を着たいのである。
いざ、我らが「しまむら」へ!初めての「自分だけの服」選び
よし。服を買いに行こう。
休日、「体操着の下に着る洋服を買いに行くよ~」と次女に伝えると、
「〇〇(次女の名前)のお洋服?買ってくれるの?」
信じられない!というようにぱぁっと顔がほころぶ。
姉妹を連れてお店へ向かう。
BeBeでもミキハウスでもない。我らが「しまむら」である。
我が家の精一杯の誠意、それがしまむらだった。
(一瞬メルカリも検討しましたが、最近は送料込みだとそんなに安くないですし、届いてから「なんかちがう」と拒否られるリスクの方が高いと判断しました!)
試着室でのいっちょ前な吟味タイム
しまむらに着くなり、ピンクの服コーナーへ直行する次女。そして、
「これは絵柄がイヤ」 「これもイヤ」などと、のたまい出す。
まさか、ここほどの品揃えを誇るしまむら様でもお気に入りが見つからない!?と母が焦りだしたその時。
「キャラクター」のコーナーで、ついに運命の出会いを果たした。
サンリオオールスターズの服たちである。 マイメロ、クロミ、ポムポムプリン、キティちゃん。
次女のテンションは最高潮に達した。
BeBeやミキハウスのお上品な服にはなかった、サンリオキャラクターがたっぷりあしらわれた服たち。
気に入った服を3、4着抱え込み、いそいそと試着室へ向かう次女。
いっちょ前にとっかえひっかえ着てみては、「ちょっと袖が長い」だの、「布が冷たく感じる」だの、いっぱしのお客様のようにダメ出しをしている。
厳正なる審査の結果、彼女が選んだのは以下のラインナップだ。
- マイメロディの薄手トレーナー
- 「ツルツルの触り心地」を姉妹で吟味して決めたスパッツ
- 姉のお下がりにありそうな柄だが、あくまで「自分で選んだ」靴下
総額、約3,600円なり。
3600円の投資で得られた「朝の平和」と気づき
「あしたこれ着ていく!」
買ってもらったばかりの服をぎゅっと抱きしめ、この上なく幸せそうな笑顔を浮かべる娘。
その顔を見ながら、私は激しく後悔した。
なぜ私は、この数千円を、12年間ケチってきたのだろうか。
四半期に一度、数千円の投資さえしていれば、あんなにも殺伐とした朝の修羅場を回避し、もっと平穏に過ごせたはずなのに!
・・・それにしても、「いつか着るかも」と、我が家のクローゼットにあふれかえる高級ブランドの子ども服たち。
どんなに質が良く、親から見て上品な逸品であっても、娘たちにとってはテンションが「アガ」らない服だったのだ。
お気に入りの服を、ほんのすこしだけ持つこと。
たとえそれが、高級ブランドではなく、しまむらや西松屋であったとしても、「自分で選んだ」ということが、子供にとっては最高のブランドになる。
そして娘たちが「これは着ない」と決めた服はさっさと手放す。それを気に入ってくれる人のもとへ。(買取サイトや店舗へ)
クローゼットの整理のしかたと、娘たちの服との向き合い方について、深く考えさせられた1日だった。
翌朝。
朝とは思えないほどの穏やかな表情でマイメロちゃんに袖を通し、ツルツルスパッツとユニコーンの靴下をはく娘。
あの日の修羅場はいずこへ?
ゴキゲンな背中に、私の気持ちも明るく一日をスタートできそうだ。

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